自分を動かす

「問いの資本」は、「問いを運用する」ことで築かれていく。

私は今年の頭に「行動指針」を7つ構築した。

1.素直でいること

2.耳をすませること

3.血流をよくすること

4.相思相愛であること

5.視点を増やすこと

6.一隅を照らすこと

7.自分だけの実験をしていること

これがあったおかげで緊急事態宣言下においても大きな不安に悩まされることはなく、淡々と自分のレベル上げをしていくことに意識を持っていくことができた。

結果論だが、個人的には結構なファインプレーだったと思う。

「行動指針」とはすなわち、自分に向けた「問い」である

「それは素直な態度か?」

「今本当に耳をすましているか?」

「自分だけの実験をしているか?」

「あの場面でもっと視点を獲得するにはどうしたらよかったのか?」

「今日も自分だけの実験に取り組めたのか?」

大前提としている「行動指針」があるからこそ、このような「問い」が常日頃生まれてくる。

そして、この「問い」に突き動かさせるように、行動が生まれたり、とった行動が改善されていっているような状況だ。

「行動指針」を憲法のように明確に言語化したのは今年になってからだが、私が「問いの味」をしめたのは実は前職の経験にまで遡る。

人は「問い」によって突き動かされている

以前勤めていたマーケティングコンサル会社には、トヨタ自動車のレクサス日本市場導入プロジェクトに参画した経験を持つ「ブランド顧問」がいた。

顧問の「わかりやすい語り口」と「圧倒的な話の面白さ」は、クライアントから大変好評でいつも学びに満ち溢れていた。

私に「問い」の大切さ、を骨の髄まで教えてくれたのも「顧問」だった。

私がまだ若手だった頃、所属していたチームではよく顧問に「アクションラーニング」のコーチをお願いしていた。

「アクションラーニングとは何か?」

アクションラーニング(以下ALと記す)は、チームや組織の学習する力を養成するグループワークのことで、海外のビジネススクールや国内大手企業のリーダー育成研修などで導入が進んでいる。

どのようなワークかというと、

メンバーの一人が、ビジネスの現場で実際に起きている「問題」をケースとして提起し、チームのメンバー同士で「質問」を投げかけながら「真の問題」を探り、解決につながる「具体的な行動計画」を立てていく、というものである。

この全体の流れをALでは「セッション」と呼び、5,6人で行うことが多い。

そして、セッションは「質問」を中心に進む。

というか、問題提起者以外のメンバーは問題提起者に対してセッション中「質問」しかしてはいけなく、問題提起者に関しては、メンバーからの「質問」に対して「回答」することしかしてはいけない。

メンバーも問題提起者も「意見」はタブーだ。

この点が「AL最大の特徴」と言っていいだろう。

それがゆえに「質問会議」と呼ばれることもある。

そして、この原則にしたがい、「質問」と「回答」を繰り返していくと、不思議にも「問題の大前提」が再定義される。

セッションを経験したことのない人からすると、「本当に?」「嘘だろ?」と思うかもしれないが、私の経験上、問題提起者がはじめに掲げた問題は「真の問題」としてほぼ間違いなく再定義される

つまり、「問題提起者本人」が、メンバーからの質問によって、最初に提起した問題は本当の問題ではなかったことに自ら気づくのだ。

そして、真の問題が定義されたところで、その問題を解決するための「アクションプラン(いつまでに何をどのようにどのくらいやる)」を立案し、参加している全員がそのプランに合意したら1セッションの終了となる。

この流れを問題提起者を変えて順繰り行っていく。

そして、立てたアクションプランに基づいて一定期間行動した後、再び同一のメンバーで集まり、行動の中から生まれた新たな問題についてALを行っていく。

ALについての説明はざっとこんなところだ。

仕組みを図示するとしたのようになるのだが、その効果を実感するには実際にやってみるのが手っ取り早いだろう。

参照:アクションラーニングセッション

そして、「ALコーチ」の役割はセッションのファシリテートである

メンバーが発したものが「意見」であればそれを遮り、「質問」が止まってしまえば「質問」を生むような「質問」をメンバーにしたり、参加者全員が「真の問題」に気付いたと思われるタイミングで「それでは皆んなで問題を再定義しましょう」というようにセッションを中断したりする。

再定義に近づくような「いい質問」がメンバーから出れば「お、それはいい質問ですね」といった言葉を発するなどして全体を進めていく。

レクサスブランドの市場導入に貢献した高い能力を裏付けるように、顧問はALのファシリテーションが絶妙に上手かった。

そんな顧問がALを通して強調していたのは、

人は問いによって突き動かされている

新しい答えを得る方法は、新しい問いを発すること

であった。

実際に、私自身顧問がコーチのALを経験し、「問い」によって突き動かされている自分がいることを何度も確認することができた。

私はこの経験によって「問いの味」を占めたのだ。

人を動かすのは「答え」ではない。

「問い」にこそ「人を動かす力がある」ということを理解した。

「問い」を重じているのは、世界一のコーチも同じ

セールスフォースCEO マーク・ベニオフ

アーティスト エアロスミス

映画俳優 ヒュー・ジャックマン

歌手 レディー・ガガ

名だたる著名人のコーチを務めるアンソニー・ロビンズ氏は、「世界一のコーチ」として名を馳せている人物だ。

ロビンズ氏が、(スポーツ、重役、人生まで含む広い意味での)コーチングをする際において重じているのも「問い」であることを少し前に読んだ本の中で知った。

話を聞いてみると、ロビンズはコーチングで問いを重じていることがわかった。

単にクライアントに質問をするというだけではない。

もちろん、クライアントがどういう人間であるか、何を成し遂げたいと思っているかを知るためにそういう質問もしている。

しかしロビンズのコーチングの要(かなめ)をしているのは、思考は無意識のうちに問いの影響を受けているということをクライアントに理解させることだ。

新しい答えを得る唯一の方法は、新しい問いを発することです。問いの質しだいで、答えの質は決まります。ですから、私がしていることはすべて、問いが土台になっています」とロビンズは話している。

そして彼が「問い」を重視している理由は明確にある。

それは、人の注意が何に向けられるかは「問い」に左右される、という人の性質からきている。

例えば、「あなたの人生でみじめに思えることはなんですか?」と尋ねれば、相手はそれまでそんなことを一度も考えたことがなくても、脳が勝手にそのことに注意を向け、答えを考えはじめる。

「あなたは何に感謝をしていますか?」

「あなたはどういう時に浮き足立ちますか?」

といった質問をしても同一だとロビンズ氏はいう。

したがって、相手の心の状態を変えたければ、「問い」を用いるのがいちばん手っ取り早いということなのだ。

クライアントの感情やエネルギーのコントロールを手伝うことを仕事とするロビンズ氏が「問い」を重視している理由はここにある。

しかし正直にいうと、ここまで読んでも特に「目立った発見」はなかった。

というのも「問いの大切さ」は、顧問に散々叩き込まれすでに織り込み済みで、他の文献でもよく見かける話だったからだ。

要するに、「世界一のコーチたらしめる要素がなんなのか?」がよく分からずにいた。

優秀なコーチは、クライアントの「問いの資本」を築く

ところが。

この疑問も束の間で、すぐに私は「大きな発見」に出会った。

下の箇所に「世界一のコーチ」と呼ばれるロビンズ氏のような優秀なコーチと、そうではないコーチの違いのヒントが示されていた。

世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオも、問いの力を重んじるひとりだ。

自身の経営哲学を明らかにした『人生と仕事の原則』で、社員採用の選考基準について、入社後ただちに担うことになる仕事に適した技能を持っているかどうかではなく、「長期的な目標を共有できるかどうか」で選ぶべきだと助言し、次のように述べている。

「有益な質問を次々とする人材を探すべきだ。賢いほど深い質問ができる。自分はなんでも答えを知っていると思っている人は、いい質問ができない。将来、成功できるかどうかは、いい答えが返せるより、いい質問ができるかどうかから判断するほうがはるかに正確だ。」

ただし、「問いの資本」を築くためには、正しい問いを見つけるとともに、それを成果まで結びつける実績を積み重ねなくてはいけない

そこでそのことを考えるために、ふたたびアンソニーロビンズなどの名コーチのコーチング事例に戻ってみたい。

ロビンズたちコーチの仕事とは、クライアントがそれぞれの目標の実現に効果的に取り組めるよう、「問いの資本」を築く手伝いをすることだと私は思うからだ。

要するに、優秀なコーチとそうでないコーチを分かつ最大の点は、「問いの資本」を築く手伝いができるかできないか、ということなのだ。

問いの資本」とはなんなのか?

私もこの本を読んではじめて出会った言葉だが、「金融資本」や「人的資本」と同一に考えれば理解は進む。

要するに、所有している「お金」を運用して、増やすことができれば「金融資本」が増えるように、立てた「問い」の答えを見つけたり、その答えにしたがって試すなどの運用をして成果をあげることができれば、「問いの資本」は増える、ということだ。

逆に、発した問いがほかの人から注目されながらも、いっこうにいかなる成果も上がらなければ、「問いの資本」はみるみる減っていく。

「問いの資本」という概念は、今までに聴いたことも考えたこともなかったが、自分を動かす重要な視点になり得ると感じた。

築いた「問いの資本」で難局を乗り越える

ではなぜ「問いの資本」を築くことがクライアントにとって重要なのか?

それは「問いの資本こそがリーダーシップの資本」だからだ。

本書の中に登場するSAPのCEOビル・マクダーモットは、重役の多くが挫折する原因は「問いの資本」をまったく蓄積せず、組織の幹部まで昇進してしまうところにあると述べている。

簡単にいえば、「20年にわたって、あれやこれやの素晴らしい成績を収めてきた。ところが、部長に昇進したところで、行き詰まってしまった。

いったい何があったのか」ということです。

一夜にして、勝者から敗者に転落したというわけではありません。

何があったかといえば、そこにたどり着くまでに役に立っていたことが、そこに辿り着いてからは役に立たなくなったということです。

そこで次の出世の階段をのぼれなくなる原因は、何をどう問えばいいかを知らないことにあります。

難局に陥ったとき、問いの力でそれを乗り越える方法を知らないのです。

この指摘は、まさに「問いの資本」が「リーダーシップの資本」とイコールであることを示唆している。

それゆえ、(重役などの)クライアントがコーチに求めることは、「問いの資本」を築くためのサポートなのだ。

「なるほど」

ようやく「世界一のコーチたらしめる要素」について腹落ちすることができた。

さらに私には分かったことがあった。

それは、顧問に教えてもらった「AL」が「問いの資本」を築くために極めて有効な手段だった、ということだ。

「真の問題」を探し、その問題を解決するためのアクションプランつくり、実行してみて浮かび上がってきた問題について再び「AL」を行う。

このプロセスはまさしく「問いを運用している」。

思うに、顧問はALを通して私たちに「問いの資本」を築くことの重大さを教えてくれていたのだ。

そして、この経験があったからこそ、緊急事態宣言という難局を「問いの力」で乗り越えることができたのだろう。

この先、難局を乗り越えなければいけないのは組織のリーダーだけではない。

誰もに予想外の難局は訪れる。

ストックが効いてくるのは有事の際で、平時の際はその効果がいまいち分からない。でもだからこそ、淡々と運用していたものにこそ得られる恩恵があるのだろう。思うに、「資本」とは全てそういうものだ。

なお、「問いの資本」という新たな視点の獲得によって、私の人生はまた大きく拓けそうである。

Photo by Karim MANJRA on Unsplash

【関連記事】

自分がいなくても社会は何事もなく回るが、いるからには「誰かの役に立とう」と思う。

「社会的知性」が高い人ほど、不安に打ち勝つ「信用」を貯める、という話。

「相手の立場に立って考える」は、「相手の関心に関心を持つ」ことで実践できる、という話。

【著者プロフィール】

SNSでは現場と文献からの学びを発信してます!

○筆者のTwitterアカウント▶︎田中新吾

○筆者のnoteアカウント▶︎田中新吾

○筆者のHTML名刺▶︎田中新吾

ABOUT ME
田中 新吾
現場と文献からの学びを発信してます。 価値の定義(ValueDesign)× 価値の見える化(ValueCreative)× 価値を届けること(ValueMarketing)が主なしごと。 視点をつくるWebメディア「Point of View」の執筆者/管理者。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です